男はつらいよ 第49作 (シナリオ:
幡多山正太郎 挿絵:
久米真未)
■場面(14) 一条神社境内の鳥居付近・その3
まずは見栄ゆえの盗歌の反省開始で悄然と立つ寅さんに、通りかかったちいさな女の子が声を掛ける。この前図書館で会ったあの子だった。
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[台詞]
「あっ、おんちゃん。振られたみたいな顔をしちゅうねぇ。どういたが・・・」
幼稚園児にも分かるような寅さんの落胆ぶりは、盗歌反省だけでなくとんびに油揚げをさらわれたようなやるせなさだけでもなく、実は自分を旅の詩人と真智子に見られている心の負担がかなりの重みを占めていた。
自分への好意と思っているものの正体を真智子自身の口から語られると、どうしても違和感と息苦しさを持ってしまう寅さんであった。
寅「おいらはそんな高尚な人間でも、何でもない。定職も持たない、ただの風来坊なんだ。自分の始末もろくに出来ない、ふがいないフーテン野郎なんだ。」と、自己卑下の権化となってしまった。
それでも目前の商売に心をやっと取り戻し、
寅「お嬢ちゃん、なま言っちゃって。おいら振られたんじゃなくて、今恋を知ったんだぜ」と気を取り直す。
「ふーん、このおもちゃ、ちょうだい。」
寅「あいよ。」と、子供に合わせて明るく応じる。
「おじちゃん、恋ってなあに。」と、こましゃくれたことを聞く。
寅「そりゃね、砂糖のように甘くて、塩のように辛いもんだよ。」と、やさしく講釈する。われながらうまい表現だと、寅さんは思った。
「ふーん、あたし良くわかんなーい。」と、おつりを受け取る。
寅「おじちゃんだって今知ったくらいだよ。」
「おんちゃん、それって遅すぎない。」
寅「あは そうだねぇ ふふふ・・・・」と、切なく応じ、力なく笑う。
この子は年端も行かぬのに鋭いところを結構突いて来やがると思う寅さん。そこへ同じ年恰好の男の子が通りかかり、
「ここにおった!やっと見つけた。蘭ちゃん、綿菓子を買いに行こう!」
「あっ、けんちゃん。はーい、じゃあ、おじちゃん。バイバイ。」と、二人は仲良く手をつないで駆けて行った。
子供が去ったあと、寅さんはあの年頃の自分は、ちょうど妹さくらの手を引いて近所の駄菓子屋へ走っていたんだなぁと唐突に思い出してしまった。
そして大酒飲みの父親との不和に悩み、不安で寂しい少年時代を反抗的にもたくましく生き抜いて来た自信が、じわっと体の底から湧いてきた。
寅「さあさ、寄ってらっしゃい。見てらっしゃい。一条神社始まって以来の珍しい品物がたっぷりだよ。よっ、そこのお姉ちゃん・・・」と、威勢良く商売の声が、一条候縁の藤棚あたりに響き始めた。
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【ポスター】 [第35作]
寅次郎 :渥美 清
櫻 :倍賞千恵子
マドンナ:樋口可南子
ロケ地 :秋田鹿角、
長崎五島列島
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五島列島の漁師町を旅する寅次郎は、知り合った老婦人の臨終に立ち会うことに。
葬儀に参列していると、東京に住む孫娘の若菜(樋口可南子)が現れた・・・
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新・四万十川新聞【日曜版】
古新聞=
『ブログフォーカス(四万十川通信)』
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