男はつらいよ 第49作 (シナリオ:
幡多山正太郎 挿絵:
久米真未)
■場面(17) 宿毛行き鈍行列車・その2
そして寅さんは腕組みし、自問自答する。一体自分は何のために生きてきたというのだろうか。
初めて真近かに見た悠久の大河四万十川に比べれば、自分の存在は一体何だろう。濁流の中で雄々しく踏みとどまる沈下橋などでは決してない。ひっそりと岸辺に佇む柳の木でもない。まして上流へ上流へとたくましく遡上する鮎でもない。水底に無造作に転がっている石ころの一つだろうか。いやいやそんなに重い存在でさえない。
一番ふさわしく思えるのは流れに浮かんでは瞬間に消える小さな小さな泡沫(うたかた)ではないのか・・・
(ここで、真智子が屋形船に乗る前に、川岸の水面を白魚のごとき指先でかき混ぜた時、ふっと泡が光って見えた景色が蘇った。)
そして次なる思いは・・・その泡沫はポワンと割れたとき、大河の流れに溶けるのだろうか、それとも虚空の大気に飛散していくのだろうか・・・であった。
不思議なことに闇の中に光輝く黄金の泡沫の幻影が現れ、シャボン玉のように次第に浮遊し始めた。列車の車輪のレ-ルの継ぎ目を拾っていた音が次第に遠くなっていく。
宿毛湾の夕陽が美しい・・・美しすぎて、やけに哀しい。
【写真】
うたかた(小谷貞広第5歌集)
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[台詞]
なし ・・・ ん?!。
【写真】四万十川とSL(予土線)
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【ポスター】 [第39作]
寅次郎 :渥美 清
櫻 :倍賞千恵子
マドンナ:秋吉久美子
ロケ地 :奈良吉野山、
三重伊勢志摩
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急死した仲間の子供との旅先で、その子が急病で倒れる。
子供を扱いなれない寅次郎はうろたえるが、隣室の隆子(秋吉久美子)に助けられ、翌朝は仲睦まじく近くの観光名所などをめぐる三人・・・
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新・四万十川新聞【日曜版】
古新聞=
『ブログフォーカス(四万十川通信)』
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男はつらいよ 第49作 (シナリオ:
幡多山正太郎 挿絵:
久米真未)
■場面(17) 宿毛行き鈍行列車・その1
進行方向右側、後ろ向きに座った寅さんが、今四万十川を渡ろうとする列車(くろしお鉄道)の窓から、河川敷を見つめる。
例によって、サッカーの練習をする子供たちの姿があった。
練習場近くのベンチには、遠目にもわかる、あの真智子の白い日傘があった。そしてその傍らにはあの若い衆の姿があったのである。二人の間の距離は日傘のせいばかりでなく、近かった。
あの事件をきっかけに急速に打ち解けたものだろうか。そして、さっそく二人して、束の間のデートをしているのであろうか。これだけ公然と衆人環視のもとデートをするところを見ると、必ずしもこの想像は当たらずとも遠からずであろう・・・。
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[台詞]
寅「あいつ、大丈夫かな。サラダばっかりのオカズじゃ先が思いやられるぜ。」と微笑を浮かべ、にわかキュ-ピッド役は何とか果たせたかな、とかすかな充実感を感じる寅さんであった。
そして31文字どころか、たったの2文字「好き」が言えなくて、縁が消えてしまった自分のこれまでの恋を振り返る寅さんの心には寂静感もあった。
やがて列車は四万十川を渡り切り、具同の街並みを左に見たあと、中筋川の育んだ平野部や山すそをのんびりと走る。
寅さんは遠くの山々や川、神社、田んぼの農作業の人々に目をやりながら、かっての出会いで、淡い恋心を一方的に抱いた、あるいは熱き思いで、もう一歩踏み込んで、こちらが意志表示すれば一緒になれたかもしれない女性達の姿を、窓ガラスに次々と思い浮かべた。
「冬子[光本幸子]、志津[新玉三千代]、歌子[吉永小百合]、千代[八千草薫]、真知子[三田佳子]、リリー[浅岡ルリ子]、久美子・りん子[竹下恵子]、・・・・」
やさしい笑顔が、走馬灯のように現れては去っていった。なかでも歌子[吉永小百合]の残像は長かった。
そして、甘くほろ苦い思いで胸が一杯になり、寅さんは下を向き、目をつぶってしまった。
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【ポスター】 [第38作]
寅次郎 :渥美 清
櫻 :倍賞千恵子
マドンナ:竹下景子
ロケ地 :北海道知床
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初夏の北海道知床を旅する寅次郎。
そこで無骨な獣医が運転する車に乗せてもらったのが縁で、居候を始める。そんなある日、獣医の娘・りん子(竹下景子)が戻ってきた・・・
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男はつらいよ 第49作 (シナリオ:
幡多山正太郎 挿絵:
久米真未)
■場面(16) 中村駅近くの路上
トランクを下げて駅に向かう寅さんの姿がある。市役所の前は通ったものの、結局、真智子に声を掛ける気にはならなかった寅さん。
やがて乳母車で行商をするあのおばあさん[樹木稀林]の姿を路上に見つけた。近所の主婦数人が干物などを買い上げたところに寅さんは近づき声を掛ける。
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[台詞]
寅「よう、ばあさん景気はよさそうじゃないか。」
「ありゃ、あんたかね。あんたの方こそ商売はどうじゃったぞね。」
寅「上々よ、宿に毛はついて来るしよ。」
「・・ほう、あんたがそういう人とは思わざったが・・・」
寅「そういう人て、どういう人だい、へへ・・・。毛を見てせざるは、勇なきなりていうじゃないか、ふふ。」と余裕を持って、非難らしき言葉をかわす。
そしてやおら、
寅「冗談に決まっているじゃないか。じゃあ、ばあさん達者でな、あばよ。」
「ああ、あんたも元気でなぁ。」
見送るばあさんはつぶやく。
「冗談を言っているようには見えんけど、それほど、おなごにもてる男とも思えんし・・・、不思議な男じゃのうし、あたしの死んだ亭主[谷幹一]に、感じがよう似いちゅう。まあ、あの人は浮気は、ようせざったが・・・」と人物評をする。
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【ポスター】 [第37作]
寅次郎 :渥美 清
櫻 :倍賞千恵子
マドンナ:志穂美悦子
ロケ地 :福岡筑豊
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ひいきにしていた旅芸人一座の座長の訃報を聞いた寅次郎は、娘・美保(志穂美悦子)を訪ね、励ました。
しばらくして、美保が柴又を訪ねて来るのだが・・・
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男はつらいよ 第49作 (シナリオ:
幡多山正太郎 挿絵:
久米真未)
■場面(15) 旅館での朝食風景
夕べの慌しいバタバタ劇で疲れを見せ、元気のない寅さんが、朝ご飯を食べようとしている。
女将の差し出した飯茶碗のごはんに箸をつけようとして、寅さんは1本の髪の毛の混入に気がついた。
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[台詞]
寅「女将さん、悪いけど飯に毛が入ってるぜ。」と茶碗を見せる。
「いやちゃ、これは、ごめんなさいね。すぐ替えますけんね。」とやや慌て気味。
寅さんそこでふと思い出したことがある。これはまさしく「宿の毛」じゃないか!あの行商のばあさんの言ったとおりになりやがったか・・・と心の中でつぶやき、ふふふと笑う寅さん。
女将さんは新たに入れなおした茶碗を寅さんに差し出しながら恐縮して寅さんを眺めるのであった。それに対し・・・
寅「まあ、茶柱みたいなもんだよな。」と女将に優しく言う。
「まあ、茶柱ですか。茶目っ気のある面白い洒落ですこと。」と応じる。
寅「なんならその毛をこのお守り袋へ入れておいてもいいんだぜ。」と胸の守り袋をつまんで見せる。
「まあそれは・・・おほほほ」と、さすがにそれには応じない。
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【ポスター】 [第36作]
寅次郎 :渥美 清
櫻 :倍賞千恵子
マドンナ:栗原小巻
ロケ地 :東京伊豆七島
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伊豆七島行きの船に乗り込む寅次郎。
式根島に降りた寅次郎の前に、小学生で先生をする真知子(栗原小巻)が現れる・・・
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男はつらいよ 第49作 (シナリオ:
幡多山正太郎 挿絵:
久米真未)
■場面(14) 一条神社境内の鳥居付近・その3
まずは見栄ゆえの盗歌の反省開始で悄然と立つ寅さんに、通りかかったちいさな女の子が声を掛ける。この前図書館で会ったあの子だった。
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[台詞]
「あっ、おんちゃん。振られたみたいな顔をしちゅうねぇ。どういたが・・・」
幼稚園児にも分かるような寅さんの落胆ぶりは、盗歌反省だけでなくとんびに油揚げをさらわれたようなやるせなさだけでもなく、実は自分を旅の詩人と真智子に見られている心の負担がかなりの重みを占めていた。
自分への好意と思っているものの正体を真智子自身の口から語られると、どうしても違和感と息苦しさを持ってしまう寅さんであった。
寅「おいらはそんな高尚な人間でも、何でもない。定職も持たない、ただの風来坊なんだ。自分の始末もろくに出来ない、ふがいないフーテン野郎なんだ。」と、自己卑下の権化となってしまった。
それでも目前の商売に心をやっと取り戻し、
寅「お嬢ちゃん、なま言っちゃって。おいら振られたんじゃなくて、今恋を知ったんだぜ」と気を取り直す。
「ふーん、このおもちゃ、ちょうだい。」
寅「あいよ。」と、子供に合わせて明るく応じる。
「おじちゃん、恋ってなあに。」と、こましゃくれたことを聞く。
寅「そりゃね、砂糖のように甘くて、塩のように辛いもんだよ。」と、やさしく講釈する。われながらうまい表現だと、寅さんは思った。
「ふーん、あたし良くわかんなーい。」と、おつりを受け取る。
寅「おじちゃんだって今知ったくらいだよ。」
「おんちゃん、それって遅すぎない。」
寅「あは そうだねぇ ふふふ・・・・」と、切なく応じ、力なく笑う。
この子は年端も行かぬのに鋭いところを結構突いて来やがると思う寅さん。そこへ同じ年恰好の男の子が通りかかり、
「ここにおった!やっと見つけた。蘭ちゃん、綿菓子を買いに行こう!」
「あっ、けんちゃん。はーい、じゃあ、おじちゃん。バイバイ。」と、二人は仲良く手をつないで駆けて行った。
子供が去ったあと、寅さんはあの年頃の自分は、ちょうど妹さくらの手を引いて近所の駄菓子屋へ走っていたんだなぁと唐突に思い出してしまった。
そして大酒飲みの父親との不和に悩み、不安で寂しい少年時代を反抗的にもたくましく生き抜いて来た自信が、じわっと体の底から湧いてきた。
寅「さあさ、寄ってらっしゃい。見てらっしゃい。一条神社始まって以来の珍しい品物がたっぷりだよ。よっ、そこのお姉ちゃん・・・」と、威勢良く商売の声が、一条候縁の藤棚あたりに響き始めた。
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【ポスター】 [第35作]
寅次郎 :渥美 清
櫻 :倍賞千恵子
マドンナ:樋口可南子
ロケ地 :秋田鹿角、
長崎五島列島
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五島列島の漁師町を旅する寅次郎は、知り合った老婦人の臨終に立ち会うことに。
葬儀に参列していると、東京に住む孫娘の若菜(樋口可南子)が現れた・・・
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新・四万十川新聞【日曜版】
古新聞=
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